クリアネス
金曜の夜は、どこを歩いても人間にぶつかる。
うっとうしい人ごみをすり抜け、ぶ厚く重い扉を開くと、外とは違う騒がしさが、心地よくあたしのこまくを揺らした。
薄暗い店内に、ライトが揺れている。
ここでは目に見えるもの全てが不確かだ。
お香のような、独特のにおいがした。
「ミカ! 久しぶり」
やたら派手な格好をした、鼻ピの女が走り寄ってくる。
ミカはその女と軽く雑談を交わし
「じゃあまた後で」
と手を振ってからあたしを見た。
「今の人ね、リョウさんってゆうDJの彼女なんだ。
今リョウさんが回してるらしいから、早く行こ」
ミカは早口でそう言うと、あたしの手を引っ張りフロアの真ん中まで走った。
てか、あたし踊る気ないんだけど……。
“リョウさん”はえらい人気のあるDJらしく、フロアに集まった若者たちがリズムに合わせて、所狭しと体を揺らしている。
ああダメ、こうゆうの苦手。
ミカはと言えば、さっきの鼻ピとふたり並んで、一番目立つ場所で踊ってるし。
「ミカ、あたしちょっと飲んでくる」
聞こえていないことは百も承知で、一応声をかけ、あたしはらせん階段から2階に上がった。