クリアネス

斉藤さんに肩を抱かれ、ベッドの上に移動した。


男の人に抱かれている間あたしはできる限りの強さで目をつぶる。


見れないんだ、なぜか。


この行為の中にあたしは愛を知らない。


抱き合うことで心が通じるとか

愛する人の温もりに癒されるとか


世の中のあたし以外の皆が口にするそんな台詞が、あたしにとっては宝くじで1等を当てることより非現実的だ。



……誰か。


もがくように手探りで宙をさまようこの手を握ってください。




……誰か。








斉藤さんは小さくけいれんした後、はっと我に返ったように体を離した。



重みを得た避妊具が斉藤さんの下半身でぶらぶら揺れている。

彼はそれをティッシュで包むこともせず、粗野なしぐさでゴミ箱に投げ捨てる。


ああ、“あたし”が捨てられた。



斉藤さんはあたしにうながされるまでもなく、今度は自ら進んでシャワーを浴びた。


奥さんにバレるのが嫌でセッケンを使わなかったんだろう。

汗のにおいがかすかに残っていた。


< 7 / 270 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop