クリアネス
斉藤さんに肩を抱かれ、ベッドの上に移動した。
男の人に抱かれている間あたしはできる限りの強さで目をつぶる。
見れないんだ、なぜか。
この行為の中にあたしは愛を知らない。
抱き合うことで心が通じるとか
愛する人の温もりに癒されるとか
世の中のあたし以外の皆が口にするそんな台詞が、あたしにとっては宝くじで1等を当てることより非現実的だ。
……誰か。
もがくように手探りで宙をさまようこの手を握ってください。
……誰か。
斉藤さんは小さくけいれんした後、はっと我に返ったように体を離した。
重みを得た避妊具が斉藤さんの下半身でぶらぶら揺れている。
彼はそれをティッシュで包むこともせず、粗野なしぐさでゴミ箱に投げ捨てる。
ああ、“あたし”が捨てられた。
斉藤さんはあたしにうながされるまでもなく、今度は自ら進んでシャワーを浴びた。
奥さんにバレるのが嫌でセッケンを使わなかったんだろう。
汗のにおいがかすかに残っていた。