クリアネス
レオがいなくなった部屋で、あたしはあの卒業文集を取り出した。
ページをめくるわけでもなく、そっと胸に抱いてみる。
なんだか、温かい気がする。
突然、電話が鳴った。
レオが帰っていくのを見計らったかのように、ぴったりのタイミングだった。
「……?」
画面に表示された番号を見て、首をひねる。
知らない番号。
「……もしもし?」
警戒しながらも電話に出てみると、一呼吸間があってから、相手は聞き覚えのない声でこう言った。
「さくらさん、ですね?」
なんとも言えない不気味さが、あたしの胸を刺す。
「……誰ですか? なんであたしの名前を?」
「ちょっと調べさせてもらいました。貴女にお話があって」
男は、今度は間を入れずに早口で答えた。まるで最初から用意していた答えのように。
「……話?」
「ハヤトのことです」
思いがけない言葉に呼吸が止まる。
あたしの沈黙は、相手に戸惑いを伝えるには充分だった。
「僕と、会ってくれますね?」
その言葉と同時に、玄関をノックする音がした。