クリアネス
あまりの驚きに、あたしは携帯を床に落とし、体ごと玄関の方を振り返った。
コンコン、コンコン……
ノックの音は、動揺するあたしをさらに追いつめるかのように、一定のリズムを響かせる。
あたしは床に落とした携帯と、玄関の扉を交互に見た。
恐る恐る扉に近づくと、その足音を悟ったのか、ノックの音がやんだ。
「……今、開けます」
あたしはゆっくり息をしながら、ドアを開いた。
立っていたのは、40歳くらいのスーツを着た細身の男。
顔に見覚えはない。
「初めまして。成瀬といいます」
男は切れ長の目であたしを捕らえながら、にっこり微笑んだ。
「突然、お邪魔してすみませんね」
まったく感情のこもっていない口調でそう言いながら、成瀬と名乗った男はリビングのソファに腰を下ろした。
「いえ……。それで、お話って?」
「そんなに警戒しないで。さくらさんも座ってくださいよ」
成瀬はふたり掛けのソファの左半分を開け、手招きする。
冗談じゃない。
なんであたしが、こんな得体の知れない男と並んで座らなきゃいけないんだ。