クリアネス
「……な、何?」
レオの表情は困惑の色を隠そうともしない。
それでもあたしは、まるで赤ん坊がそうするように、しっかりとした力で彼の指を離さなかった。
床に落とされたふたつの缶ビールが、でたらめに水たまりを作っていく。
この指を、離したくない。
あたしは自分の中に生まれた戦慄とも言える感情の揺れを、どう処理すればいいのかわからずにいた。
目の前のレオはますます困った顔になっていったけど、あたしの方がもっと困っていた。
「触れて」
不意に口をついて出た言葉。
羞恥心や見栄なんかより先に、安堵を感じた。
そう、あたしは触れてほしかったんだ。
あの指で、そしてあの唇で。
彼の全身で。
無軌道に揺さぶられる感情の正体を、やっとつかめた気がして安堵した。
だけど、それは次のレオの言葉で、いとも簡単に砕かれた。
「……ごめん」
耳をふさいでしまいたかった。
あたしはレオの指を握る手に、さらに力を込めた。
それを断ち切るように、レオが言う。
「俺、仕事以外でそうゆうことする気になれない」