クリアネス

申しわけなさそうなレオの表情を見て

あたしは無造作に握りつぶされた紙くずみたいに、くしゃくしゃと心をつぶされた気がした。



心臓が痛い。


本当にわしづかみにされたように、心臓がうまく血を送り出してくれない。



「……なんで?」



自分でも嫌になるくらいの、弱々しい声が出た。



「……なんででも」



レオの返事は、まったく答えになっていなかった。



あたしは、ゆっくり指を離す。



ああ……、

また成瀬のあの言葉がよみがえる……。




――『あいつが仕事以外で女を抱くことはありませんよ。この先、決して』





唾をのむのもためらうほどの沈黙が続いた。



こんな気まずい状況、いつもの軽いノリで「じゃあまた来るね」なんて言って逃げてしまえばいいのに

それをしないのはレオの優しさだと思った。



耳がしびれるくらいに長い沈黙を破ったのは、無粋に響くインターホンの音だった。


< 99 / 270 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop