クリアネス
申しわけなさそうなレオの表情を見て
あたしは無造作に握りつぶされた紙くずみたいに、くしゃくしゃと心をつぶされた気がした。
心臓が痛い。
本当にわしづかみにされたように、心臓がうまく血を送り出してくれない。
「……なんで?」
自分でも嫌になるくらいの、弱々しい声が出た。
「……なんででも」
レオの返事は、まったく答えになっていなかった。
あたしは、ゆっくり指を離す。
ああ……、
また成瀬のあの言葉がよみがえる……。
――『あいつが仕事以外で女を抱くことはありませんよ。この先、決して』
唾をのむのもためらうほどの沈黙が続いた。
こんな気まずい状況、いつもの軽いノリで「じゃあまた来るね」なんて言って逃げてしまえばいいのに
それをしないのはレオの優しさだと思った。
耳がしびれるくらいに長い沈黙を破ったのは、無粋に響くインターホンの音だった。