チェリーをあげる。

渡さんは苛立ちを露に右手で素早く頭をかくと、


ゆっくり立ち上がって窓際へと移動した。




「俺はさ、別に付き合ってるからって、そういうことしなくてもいいと思ってるんだよね…」


「え…?」




渡さんは窓を開け、夜の海を見ながら私に言った。




「だってさ、エッチなことするだけが付き合う目的じゃないわけだろ…?」




渡さんは「そう思わない?」と訊いてくる。




「それは…、そうかもしれないけど…」




やっぱり、好きな人とはそういうこと経験してみたいよ…。



好きな人とひとつになりたいっていうか、


一緒に幸せを味わってみたいっていうか…。






…けど、


そこまで出かかった言葉は、渡さんの次のセリフによってかき消されてしまった。




「実は俺、そういうことが原因で、高校時代にちょっと嫌な思いしてるんだよね…」


「え…?」


「だからそういうことはもう当分いいかなって思ってたんだ…」




渡さんはこっちを向くと、悲しそうな目をして言った。
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