チェリーをあげる。

「あ…、うん…。たった今着いたとこ…」




私が答えると、




〈そっか…。なんか俺、千歳ちゃんにちゃんとお礼言えなかったから、雛ちゃんから言っといてもらおうかなって思ったんだけど…〉




渡さんはそんなことを言い出した。




「あ…、そうだね…。わかった、後でお礼言っとくよ…」


「悪いね…。じゃ…」




渡さんが電話を切るようなセリフを言ったので、


私はあわてて彼をつなぎ止めようとした。




「あ…、ねえ…、次はいつ会えそう…?渡さん、なんかバイトが忙しそうだけど…」




すると渡さんはしばらくしてからこんなことを言った。




〈ごめん…。きのうみたいなことがあると、雛ちゃんとはもう付き合えないよ…〉


「え…?」


〈…ごめん〉




次の瞬間、いきなり電話が切れた。




「渡さん…?」


〈――――〉




うそ…。



うそだよね…?






私は渡さんに電話をかけ直してみたけど、


電話は留守電サービスにつながるだけで、彼の声を聞くことはできなかった。
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