チェリーをあげる。
バスは長いこと山道を走り、
目が覚めたときには目的地である渡さんの地元に着いていた。
渡さんの故郷は、東北地方のとある港町にあった。
小さな駅の前でバスを降りると、どこからともなく潮の匂いが漂ってきた。
通勤時間を過ぎていたせいか、駅前だというのにやけに人が少なく、とても静かな印象があった。
伸さんが持っていた旅行雑誌には、一応この町のことも書いてあったけど、
駅前に立つ周辺地図の看板を見る限り、お世辞にも観光地と言えるような場所じゃなかった。
それでもここは渡さんのふるさと。
彼が長年この町で過ごしてきたことを思えば、どんな観光地より訪れる価値はあった。