チェリーをあげる。
思わず唾を飲み込むと、電話機の向こうで渡さんが大きくため息をつくのが聞こえた。
〈なんでそんな勝手なことするんだよ…〉
「え…?」
〈俺、元カノから“俺のことはもう何とも思ってないから、雛ちゃんと仲良くしてやれ”って言われたんだよ…〉
「えっ…」
礼さんは私の頼みをちゃんと聞いてくれたんだ。
それはありがたかったけど、予定は少しズレちゃったみたいで、
渡さんの心は私達の思うように動いてくれてはいなかった。
〈わかる…?俺の気持ちが…。いずれは思い出にしなきゃって考えてた元カノに、心の中をかき乱されたんだぜ…?わかるか…?俺がどんな気持ちになったか…〉
渡さんの声はだんだん小さくなっていって、しまいには泣いているようにも聞こえた。
「渡…さん?」
〈違うんだよ…。俺が求めているものは…〉
渡さんはずずっと鼻をすすった。
〈ごめん…。雛ちゃんの気持ちもわかるけど、こんな君とじゃ俺はやっていけないって思ってるから…〉
「え…?」
次の瞬間電話は切れていて、「ツー・ツー・ツー」という機械音だけが耳に響いた。
うそ…。