チェリーをあげる。
再び男に目をやると、彼は随分やせていて、ひどく顔色が悪かった。
長身で一見若そうに見えるけど、グレーがかった髪の毛からして、おそらくアラフォー世代だろう。
「もしかして、あの人がよっこの彼…?」
そうたずねると、よっこは苦笑いした。
「うん…。正(タダシ)って言うんだけどね、2ヶ月くらい前に脳をやられちゃってさ…。今この病院に入院してるんだ…」
「え…」
そんなこと、何も聞いてなかったから驚いた。
「脳卒中とか脳梗塞って言うの…?なんか脳の大事なところがダメになっちゃったみたいでさ…」
よっこはそう言って鼻をすすり、
「ちょっと場所変えよう」と言って、私をひとつ下の階にあるデイルームへと連れ出した。