チェリーをあげる。
「私ね、そう思って頑張ることにしたんだ…」
よっこがそう言ったとたん、車椅子に乗った正さんがゆっくりこちらにやって来た。
「ごめん、待たせたね…」
少しかすれた声でそう言うと、正さんは私の方を見て、よっこに「こちらの方は…?」と訊いた。
「ほら、友達の若井雛さん」とよっこが言うと、正さんはにこっと微笑んだ。
「君が噂の…。容子がいつもお世話になってます」
か細い声でそう言った正さんに、私は思わず泣きそうになった。
「いえ、こちらこそ彼女にお世話になりっぱなしですみません…」
彼に頭を下げると、
よっこは「これ、頼まれてた本持ってきたから」と、手にしていた紙袋を正さんに渡した。
「いつも悪いね」
「ううん」
ふたりは幸せそうに見つめ合うと、睦まじそうに話を始めた。