チェリーをあげる。
「私も彼もお互い初めてだったから、もうびっくりよ」
礼さんは思い出し笑いでもするかのように口元をゆるめた。
「私は大学1年だったんだけど、翌年の春からアメリカに1年留学することを決めてたし、渡なんて高3の受験生でしょ…?お互い夢を持っていたから、どう考えても子どもを産むのは無理だったのよね…。それで赤ちゃんには悪かったけど、夢のために犠牲になってもらったんだ…」
「……」
私は何も言えなかった。
「渡は産んでくれって言ったんだけど、あのときの私は子どもより互いの夢の方が大事だって信じてたから、迷わず堕ろしちゃったんだ…。結局渡とはギクシャクしちゃって、あいつとは別れることになったんだけどね…」
礼さんは苦笑いした。
「そうだったんですか…」
この話は渡さんのお姉さんからも少し聞いてはいたけど、
こうして礼さん本人から聞くと、生々しくて身震いのする思いだった。