チェリーをあげる。

この店のトイレは男女共通仕様だった。




清掃用具入れからデッキブラシとホースを取り出し、床に水を流してブラシで簡単に磨く。


それからひとつしかない個室にこもり、便器の中に洗剤をまいて、ブラシでゴシゴシこする。


便座やタンクを雑巾で拭いた後、


ゴミを確認して、洗面台と鏡を念入りに磨く。




鏡の前には忘れ物らしき小さな巾着袋が置いてあったんだけど、


忘れた人が後で取りに来るだろうと思って、それは特に動かさないでおくことにした。




壁に貼られたチェック表にサインを入れれば、今日の掃除も無事終了。




…よし、これで帰れる。




ゴム手袋を外し、手を洗ってトイレから出ようとしたときだった。




「若井くん」




私の目の前に再び店長が現われた。




「あ…、すみません、掃除終わったんで今出ます」




私は彼に頭を下げ、トイレの外へ出ようとした。






…けど、


店長はドアの前に立ちはだかり、なぜか私に道を開けてはくれなかった。
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