チェリーをあげる。

「渡さん、助けてっ…!」




思わずそう叫ぶと、店長が「しっ!」と私の口を右手で押さえた。




「…っ!」




口がきけなくなった私は放たれた左手で横の壁をバンバンたたいた。




「え…、雛ちゃん…?」




私に気づいてくれたのか、渡さんがこちらに歩いてくる足音がした。



私はそうだよとでも言わんばかりに再び壁をバンバンたたいた。




「何…、どうかした…?」




口をモゴモゴさせる私の前で、店長が再び舌打ちした。




「何だ、誰かと思ったら橋尾か…」


「…そうですが」




ドアの向こうから渡さんが答える。




店長は大きくため息をつくと、渡さんに向かって言い放った。




「すまんが今ちょっと取り込んでるんだ…。悪いが席を外してくれないか」


「え…?」


「いいから黙って消えてくれ」


「……」




店長の言葉に、渡さんは急に黙りこくった。
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