チェリーをあげる。

これってもしかして、


噂に聞く“ひったくり”…?!




うそ、


こんなとこにそんな人いるの…?!




確かにそのへんの電柱には〔ひったくりにご用心!〕って張り紙がしてあるけど、


自分が被害に遭うなんて思ってもみなかったからあせった。




スクーターの男は私のバッグを手にしたまま、どんどん前方へ遠ざかって行く。



私も息を切らしながら、駅前の角を曲がるスクーターを一目散に追いかける。




「待って…!ねえ、待ってよぉ…!」




そう叫んだつもりだけど、声がまともに出てこない。




ダメ…、ダメだよ…。




あのバッグの中には、渡さんに宛てた手紙や祝儀袋が入ってるんだもん…!



それに携帯も財布も手帳だって…!




あのバッグがないと、


私、渡さんに会いに行けないよ…!




早く取り返さなきゃ…!!
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