チェリーをあげる。

年甲斐もなくキョウダイゲンカなどしていたら、誰かがドアをノックする音が聞こえた。




「失礼します」




そう言って入って来たのは、体格の良さそうな見ず知らずのおばさんだった。




「よかった…。思ったより元気そうね」




私の顔を見るなり彼女ははーっと息を吐いて、


「ごめんなさいね。私が今朝あなたにぶつかった張本人よ」と言った。




おばさんの話によると、


私が赤信号で飛び出したため、横から走ってきたおばさんの自転車にどーんと突き飛ばされたのだそう。


私が気絶したまま動かなかったので、心配になって救急車を呼んでくれたらしい。




「すみませんでした…、私、ちょっと急いでまして…」




おばさんに頭を下げると、彼女は笑った。




「こちらこそブレーキが間に合わなくてごめんなさいね…。でも、元気そうでよかったわ」




おばさんは「これ、ほんの気持ちだけどお見舞い」と言うと、持っていた紙袋を蒼に手渡した。




そして「一応警察にも連絡させてもらったから、後で連絡がいくかもしれないけど了解しといてね」と言いながら、


そそくさと部屋を出て行った。
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