チェリーをあげる。
呆然とする私に、渡さんは続けた。
「実は俺、君と付き合うって決めたときに、過去の恋はきれいさっぱり忘れて、また新たな気持ちで頑張ろうって決心してたんだ…。けど、今思えば俺、何も頑張れてなかったなって思ってさ…」
「え…?」
「君と付き合ったことで、まだ礼に未練があったことに気づいて、君のこと散々傷つけてさ…。あのときのことは俺も謝るよ…。ごめん」
テーブルに着くぐらい深く頭を下げた渡さんに、私はあわてて顔を上げるよう言った。
渡さんはゆっくり顔を上げると、もう1度「ごめん」と言って席を立った。
そして側にあった自販機で紙パックのコーヒーをふたつ買うと、
そのひとつを「これ、お詫び」と私の前に置いてから、
また椅子に腰掛けて、ストローを紙パックにさし込んだ。