チェリーをあげる。
ひとり悶々と考えていると、「見て」と言いながら渡さんが足を止めた。
そのとたん、私は彼の背中にぶつかりそうになったけど、なんとか体勢を整えて視線を前方に移した。
「え…」
そこにはまばゆいばかりの夜の街が、宝石箱をひっくり返したように広がっていた。
「わ…、すごーい…」
「でしょ」
「うん…。きれー!」
思わず渡さんの横顔を見上げ、はしゃいでしまった。
素敵な所に連れて来てもらったせいか、彼の笑顔が素敵なせいか、私のドキドキは更に高まった。
「わかる?あそこが駅で、あのへんが市役所…。あれがうちの大学で…」
いちいち説明してくれる渡さんの話なんか全然耳に入らなくて、
いつしか私は彼に触れたい、触れてほしい、そんな気持ちでいっぱいになっていた。
こんなロマンチックな場所で、肩でも抱き寄せてくれたらいいのに…。