Zero
そう言えば、すぐ向こうですんでいる女が影のような薄い存在だった。
大体結婚相手としては考えていない訳だから。

結婚相手は普通な人がいい。
普通といえば、どんな人は普通かというとはっきり言えないけど、とにかく向こうで住んでいる女と違った人間の方がいい。

彼女はすごく不安定ってイメージを受けていた。
不安定といえば毎日変なことをやっちゃってそのままで普通に生きているのは安定に言えるかもしれないけど。

ソファで横にして、何を考えているようだった。
目はずっと天井を見つめていた。
この宇宙に定格された時間の隙の一瞬から落ちてきた、寂しい人間だった。
こういう感じがすごく伝わってきた。

そう思いながら、体を震えた。
何故だろう。
どっかの力に引っ張れた感じだ。
寂しい世界に。

確かにあの日、彼女に会った。
吉本と一緒に出掛けた所、すごく偶然に彼女に会った。

吉本は後ろに立っていた。
そのビール女の目線は僕に寄せてこないまま後ろに立っていた吉本さんを見つめていた。

じっくりと、みていた。
そして、見を離れた。
この目線、赤ちゃんみたいな純粋な目だった。

彼女と3人でエレベータを待っていたけど、結局ビール女は一緒に入ってこなかった。

「へ〜、あの美人さんじゃない?向こうで住んでいるの」
二人切りになって、吉本はそういってた。
「そうだよ。」
「うん、寂しそうだな。」
「別に。人はそれぞれのスタイルで生きているから。」
「なんで弁解するの?まさかタイプなの?少し鬱って感じ」
「何だよう、勝手に言わないでよ。失礼でしょ、初対面の人にそういうのを言っちゃって。」
「隠さなくてもいいよ、別にいいじゃない?寂しいから。」

吉本の瞳にこの限界もなく遠くまで広がっている世を映っている。
こんな目を見ると、急に、吉本が輝いているように見えてくる。
大体、こういうとき、僕は吉本を女として、見ていたのだろう。

心の中の空き地、一体誰の領土になるのかしら。
この若い女の子、吉本愛。
< 10 / 16 >

この作品をシェア

pagetop