Turquoise BlueⅡ 〜 夏歌 〜


「寂しいあの子の願いは
たった二つだよ

歌う事、
そして
傍に居てあげる事

だから
もし誰かが彼女を、
強く愛していたとしても
その二つを理解してあげていなければ

…どんなに他の部分が満ちた
暮らしをあげても
あの子は幸福にはなれないんだ


僕だって
アズルンがどれだけ歌がうまくて
見た目いい女だったとしても

あの日
夏の朝、起きた屋上の木箱の上に
トマトと塩が置いていなかったら……

洗濯物、
わざわざ取り込まなかったんだって
笑う青山くんに聞いていなかったら

また何か違ったと思うんだ



特に僕の趣味みたいのは
『馬鹿じゃないの?』って
言われる事、多いからさ…



……あのね
僕、最近気が付いた事があるんだ

よく話に出る
『他人のコンパスを狂わせる人間』

これの正体って

…極論

『その人間が一番望む物を
最大の形で、与えてしまう人間』
なんじゃないかって」



――池上さんの手には
透明のシェイカー

砕いた氷と
いくつかのシロップとジュース

ピンクと黄色のその中身を振って
私と『彼』の前に
「アルコール抜きね」と
グラスを置いてくれる

最後にそこへ
レモンを搾ると
ピンクはいきなり、
紫色へと変わった


目の前の魔法に、歓声をあげる
『彼』と私

池上さんは
「まだまだ」と笑いながら
そこに何かまた入れたら
今度はそれがゆっくり
茜色に、変わって行った――



「…アズルンが求める物を
最大の形で
その人柄と様々な要素で

無理なんかせずに
自然に与えてあげられる青山くん


青山くんにしても
アズルンがそういう存在で…

だから僕らは
彼等を見ていると
自分達まで幸福になる

…だから、守りたいと思う」




『…俺もアズに
居場所を貰った』


『彼』は紅く染まって行くグラスを
部屋のライトに透かしながら
小さく、でもはっきりと
呟く



……私は
『彼』にベースを助けて貰った






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