Turquoise BlueⅡ 〜 夏歌 〜
…ベンチに
大泣きする女の子が入って来た
理由はわかんないけど
お父さんみたいな人と二人
お父さんはその子を置いて
飲み物の売り場に走る
一人ぼっちにされて
少し泣き止んだけど
まだヒックヒックしてて
またすぐに、爆発しそうだ
ベンチ全体に、微妙な緊張が漂う
――いきなり
アズさんはおもむろに
自分の持っていたビニール袋から
小さなガラス細工を出して
紙をビリビリと破いて
その子に渡してしまった
女の子は、一瞬キョトンとしてたけど
そのパンダとウサギに
目がくぎづけになった
「リカちゃん あのね
…この子達が、うぁー リカちゃんとこ
行きたいなぁーって言うから
連れてってあげてよ」
「…………」
女の子はびっくりした顔で
だけど、大きくアズさんに、頷いた
暫くアズさんは
ニコニコ笑い始めた女の子と
話をしてたんだけど
――帰って来たお父さんと
入れ違いみたいに
席を立った
青山さんも同時に、席を立つ
私達も、後についた
「アズさん
…何であの子が
リカちゃんってわかったの?」
「お父さんが言ってたよ」
「うあ 全然聞こえなかった」
歩きながら青山さんは
「寒くないか?」とアズさんに聞き
アズさんは
「いっちゃんが下に、
ハラキャミ着せてくれたから
平気」と答えた
「…ハラキャミ?」
「うん ハラマキとキャミの
コラボなの」
「何だそれは」と
青山さんが、おかしそうに笑う
"それでは
来場の皆様お待ちかねの
ラスト花火、大連発が始まります
夏の夜空の華を
存分に御堪能下さい"と
スピーカーの、放送が入った
人の波が、ざわめきと共に動く