Turquoise BlueⅡ 〜 夏歌 〜



「あの『Azurite』って人さ
アンタ、去年のライヴの時
会ったんだっけ」

「…見ただけ」

「あの娘を見てるとさ
たま〜に、ベース、弾きたくなるよ」


「……お母さんまで」

「だって、
呼ばれてる気がするんだも〜ん」


お母さんは、そう言って
ひとつ覚えみたいに
"タイムマシーン"を歌いながら
庭へのサッシを、カラカラと開ける


少し土が盛り上がったそこには
小さな家庭菜園

黄緑の支柱に、ナス
横の白い鉢には、弟が持って来た、
赤い朝顔の花が、咲いている
(実質育ててるのは
お母さんだけど…

物干しに
さっき干してたシーツが
もう、少し風に揺れ始めてる

空には、入道雲



――― 突然

もしお母さんが
急に私と、同じ位の年になり
今、その手に楽器を持って
ここを出てしまったら……


そういうもの凄い
SF妄想が浮かんで来て

慌てて、
『お母さん!』と
叫んで呼んだ

お母さんはびっくりして
部屋に入って来たけど

たまたまテレビに
お母さんの大好きな
演歌の『キヨシ』が出ていたから
それを教えたと思ったみたいで

一緒の振りを真似ながら
『キヨシ音頭』を、踊ってた



玄関が、ガチャっと開く音

「ただいま〜 」

――お父さんだ





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