分け合う秘蜜
「…帰ったんじゃなかったの?」
「えっと…引き留められちゃって、
断れなくて」
痛いくらいに腕に
力が入れられていて、
顔にそれが現れそうになる。
なんで、こんなに
力入れてるんだろう…。
ズキンズキンと痛む手が、
感覚を失っていきそう。
「乗って」
乱暴に開けられたドアに、
あまりの恐さに乗ってしまうあたし。
先生、怒ってる?
先生の説明、最後まで
聞かなかったくせして
塾長に捕まってたから?
だんだんと俯くしか
できなくなって、
目を伏せていると
隣の運転席に乗り込んだ先生を
思わず見てしまう。
…車の免許、持ってたんだ。
当たり前か、先生は大人だし。
ふうとため息をついて、
通り過ぎていく街頭を見て
なんだか悲しくなる。