センチメンタルな季節【短篇集】
 あの人と出会ったのは遠い昔の秋だった。

一緒にいることに幸せだと感じたのは北風が寂しく吹く冬だった。

あの人の笑顔は春を運んできてくれたし、一緒にいる時間は暖かく穏やかだった。

冷たい手を繋げばすぐに熱を帯びることもあれば、キスをする前にお互いの鼻をあてて「冷たいね」と小さく笑ったこともあった 。

春は指先だけを絡ませて菜の花畑を歩いた。

夏は必ず夜空を見上げた。

そして、紅葉が色づき始める頃に彼は遠くへ、いってしまった。


甘く、苦い季節、そして金木犀の香る季節だった。

私はいつも泣いていた。
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