センチメンタルな季節【短篇集】
乾燥した唇の第二段階は唇の皮が剥ける、だ。

そうなってしまうと剥いた部分から血が出る。

そして食事をする時にその部分に滲みて痛いのだ。

それだけはなるべく回避したい。


「舐めると余計にひどくなるんだって」


彼はそう言って、私の唇を右手の親指で押さえつけた。

なんだか、彼の指紋まではっきり分かるような、そんな気がした。


親指は唇の輪郭をなぞるように撫でていき、口角に到着すると、そのまま口づけを与えてくれた。

荒地だった場所が豊沃な土地になることだってあるし、砂漠になってしまう時もある。

今の私の唇はきっと前者だろう。一足先に春を迎えている。
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