センチメンタルな季節【短篇集】
風を連れて来た女は、鮮やかな青いチャイナドレスに黒い大判ストールを肩から自分の体を包み、どこか儚げな風情であった。
その姿は月も出ていない闇夜に溶けても不思議ではない、と言い切れる程である。
それほどまでに今夜の彼女はあまりにも儚く、艶かしい雰囲気を醸し出している。
そして、今にでも手折れてしまいそうな花の姿によく似ていた 。


突然の、そして意外な客人に目が覚めてしまった男は、その意外な客人をジッと見つめるだけしかできなかった。

口を閉じ再びと開くが声は発せられず、再び口を閉じるという一連の行動を、二、三回繰り返した。
客人はその奇妙な行動について、何も言わず、ただ、訝しげに目を細めて見つめるだけであった。
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