天使の涙(仮)
実々が会社を後にしてからずっと、実々のこと、今朝会った男のことが気になって仕方なかった。
でも俺には仕事があって、終わるのは早くても10時過ぎ。
それでは確実にあの男と実々は鉢合わせになってしまうだろう。
それはどうしても避けたかった。
だから仮病を使って無理矢理に仕事を早退させてもらったんだ。
会社を出たのは、実々が帰ってから1時間も経っていた。
大粒の雨が降っていて傘のない俺はずぶ濡れになることは必至だった。
なので社員用玄関の傘立てにいくつか刺さっていた傘の一本を失敬して、駅へと駆け出した。
電車の進む早さはいつもと変わらないスピードなのに、今ばかりはこんなに遅かっただろうかとイライラした。
俺はとても焦っていた。