天使の涙(仮)
電車を降りてからは夢中で走った。
ホームも改札も、実々の家への道のりも。
ジーンズの裾が濡れようが、スニーカーが濡れて靴下にまで染みてこようが関係なかった。
きっと実々はあの男と会ってしまっただろう…。
でも今なら、その二人だけでいる時間を壊せるかもしれない。
本気でそう思った。
二人に割り込んで何をしようとか、言おうなんて考えてもいない。
と言うよりは、考えても分からないし、考える余裕すらなかった。
アパート前の歩道で、ずぶ濡れになって立ち尽くしている実々を見た。
その姿は儚げで、今にも消えて失なってしまいそうだった。
実々の前に立つ俺の肩に頭を乗せ、Tシャツの裾を掴む仕草からは何かがあったことは明らかだった。
そして、ずっと疑問に思っていたことが俺の中で確信を得た。
俺は実々を一人の女として好きだということに。