天使の涙(仮)
家に入ってすぐにシャワーを浴びるように言った。
俺は濡れた靴下を脱いで、丸めてスニーカーの中に押し込もうとした。
「それ、洗濯してあげるからちょうだい。」
“そんなの置かれると玄関臭くなりそう”と軽くヒドい言葉を言って、断わる俺の手から丸めたそれを奪った。
そのまま無言で浴室に消えて行ってしまった。
俺はテレビの電源を付けてソファーに腰掛けた。
今旬のお笑い芸人がコントを繰り広げているが、まったく笑えない。
面白くないんじゃなく、この状況で笑えるわけがなかった。
気付いてしまった実々への恋心。
薄々気付いてはいたんだ。
女友達に対しての俺の使命感。
長年連れ添った彼女と別れてまで、実々を知りたいと思った好奇心。
嫉妬にも似た感情。
今思うと俺の一挙一動が異常だった。
今頃気付くなんて俺はどれだけバカなんだろうか。