天使の涙(仮)
タクシーがマンションの前で停まって、運転手に“ありがとう”と言ってエントランスに入った。
給料もさほどいいわけでもないのにオートロックのマンションなんかに住んでる俺。
それはこのマンションは5年前に死んだ親父が、俺に残してくれた唯一のものだった。
それには俺の生い立ちを一から話さなくてはいけないので省略する。
この事実は誰も知らない。
長年付き合ってきた沙也加さえも。
それは誰も知らなくていい事実だと思ったから。
俺だけが知っていればいい。
実々は“贅沢者だ”と言ったけど、俺にも一つや二つの暗い過去がある。
このマンションはその“代償”とでもいうべきか。