初恋 ~キミが僕に残したもの~
「おまえってやつは、どうしてこうなんだ。
だから一緒にタクシーで来ればよかったものを……」
「Yシャツにアイロンをかけてたんだよ。昨日、母さんに頼むのを忘れたからさ」

時間ギリギリでやってきた息子に、父親は溜息ばかりをついていた。


いい訳をしながら、ざわつく式場を一瞥する。
待合室は彼女の友達や、新郎の友人、知人などで溢れていた。

みんな着飾り、そしてとても楽しそうに見えた。
ここにいることが本当に場違いなんだということを思い知らされる。


これだけ大勢の中で、彼女たちの結婚を祝福できないのはおそらく僕だけだろう。


「夢美ちゃんがおまえと話したいそうだ」
父はタバコに火をつけながら言った。


彼女の名前が突然出てきて思わず体がびくっとなった。
動揺しているのを悟られないように、なるべく自然を装いながら父に「どうして?」と返す。
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