初恋 ~キミが僕に残したもの~
「式までもうすぐだね」

呟くようにそうしぼりだした。


そんな僕の心中など彼女は知らぬかのように嬉しそうに「そうね」と頷いた。


「あっち(イギリス)の生活はどう? 不便ない?」
まるで母親のようなことを聞く。
ぼくは首を横に振りながら「慣れたよ」と返した。


「毎日忙しいの?」
「まぁ、それなりだよ」
「そっか……でも元気そうで安心した」
そう言って彼女はまたほほ笑んだ。


のどに何かが詰まるように苦しくなった。


「誠ちゃんと会って、もう何年になるのかな……」
懐かしい昔を思い出すように、遠い眼をしながら彼女が言った。


僕は胸の中で「十三年だよ」と答えた。


「初めて会ったときはもっと小さかったのに、あっという間に大きくなっちゃったね」
「そう……かな」
「うん。身長もいつの間にか抜かれちゃったし」
春の陽射しを思わせる、温かな笑顔を彼女は投げた。



この笑顔が見たくて、彼女を困らせた小さなぼくが見え隠れしていた。
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