初恋 ~キミが僕に残したもの~
「誠ちゃん。私のこと、忘れないでね」


彼女の突然の言葉に、ぼくは思わず振り返る。


錯覚してしまいそうになった。
彼女が僕を本当は好きなのではないのかと――だから声が震えているように聞こえるのではないのかと――

でも、痛いくらい知っている。
それは確かに愛情ではあるけれど、恋愛のそれではない。
兄弟のいない彼女にとって、ぼくは弟的な存在。


いや、弟そのものなのだ。


その現実を受け止めるのが嫌で逃げてきたのに、彼女はやっぱりそれを突きつけてくる。


――これ以上、ここにはいられない。


そこにいたら何をするか分からないほど、気持ちは膨らんでいた。
泣きそうな顔をした彼女を力の限り抱きしめて、この場から連れ去ってしまいそうだった。


――迷う必要なんかあるもんか! これは機会(チャンス)だぞ! 今しかない機会なんだ
ぞ!


どこかで誰かが叫びはじめるる。


 
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