初恋 ~キミが僕に残したもの~
僕は内ポケットからタバコを取り出して、火をつけようとしたが、ライターはちっとも炎を灯さず、湿気た乾いた音だけが小さくこだまする。


――どうしてここにいるんだ……?


辛くなるのが分っているのに、僕はまだ逃げることもせずにここにいる。


ずっと逃げてきたこの僕が……だ。


ここにいても楽になどなるわけがない。
むしろ苦しいだけの時間は自由を奪い、想いの羽をむしり取るだろう。


それでも一緒にいたかった。


彼女の顔をまともに見れなくても、それでも他の男のものになる最後の最後まで彼女と繋がっていたかった。



――バカだな……



自嘲の笑みが自然ともれた。



勇気もない。
意気地なしで女々しい男。


それが今のぼくの姿だ。


たった一言でよかったはずなのに、それが言えない。
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