空の神衣
 闇珠達はツールに宿る人格だ。

 目で物を見るわけではなく、感覚でとらえる。

 カードであろうとなかろうと、闇珠が認識するカードの印象が変わるわけではない。

 津也がつけた影縫という名を知らないので、闇珠は『カード』と呼んでいるのだ。

 影縫は闇珠に手を差し出す。

『私はもうすぐ、本当にに消えるだろう。君に頼みたいことがある』

『頼みたいこと?』

 闇珠がきょとんとしていると、差し出した影縫の手から光の珠が生まれる。

『私は津也と出会って、未知の力に目覚めた。この力で、津也と共に戦ってほしい』

 光の珠は宙を漂い、闇珠の前で止まる。

『あなた、津也の生命力を吸収すれば消えずに済むんでしょ。どうして自分で戦わないの』

 言いながら、闇珠は我ながら意地悪なことを言うと思う。

『聞くだけ野保、よね』

 互いに顔を見合わせ、くすくすと笑う。

『津也に心惹かれたからだよ。私は津也の重荷になりたくない』

『津也は、一緒にいたいと言ってくれるかも知れないわ』

『本当にそうなら、嬉しいのだけど』

 照れたように笑う影縫の姿が、少しずつ消えていく。

『もう、消滅は止められない。このために君を呼び寄せたんだ、引き受けてくれるよね』

『この状況でイヤだなんて、言えるわけないじゃない』

 すねたように闇珠は答え、光の珠を受け取る。

『じゃ、行くわ。津也が待ってるから』

『幸運を…祈って…いるよ…』

 意識の中を昇っていく闇珠を見送り、影縫は露と消える。

 闇珠は喪失感を抱きながら、津也の声がする方へ昇って行く。

『使いたくないわ、この力。私も津也を愛しているから』

 呟きながら、闇珠は津也と共に勝ち残ると改めて決意する。

 闇珠もまた、津也の魂に魅了されていたのだ。
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