空の神衣
「津兄ぃ、遅いやん。ウチ、生地こねて腕パンパンなってもうた」

 年齢は二つしか変わらないし、顔も全く似ていないのだが、晶は津也を兄と呼ぶ。

「俺にも都合ってもんがあるんだよ。ほれ砂糖」

 津也は砂糖壷をテーブルに置くと、晶の髪に積もった小麦粉を払ってやる。

「シオンと戦ったらしいな。そんなもん、勝てるわけないだろ」

 津也が言うと、晶は頬を膨らませる。

「分かってるて、そんなん。せやけど、最後誰かと戦うて終わりにしたい思たんよ」

「それで、シオンか」

 晶の思いが、津也にはよく分かった。

 無論、晶がミシェルと戦ったことなど津也は知らない。

 だが、晶の様子から何かあったことは察しがついた。

「李苑と違って、晶は蒼馬を誤解してたわけじゃないんだろうけど」

 津也は晶の頭をポンポン叩く。

「戦わないって決めたんなら、それはそれでひとつの答えだよ」

 李苑と同様、津也は晶と戦うことも想定していた。

 だが、晶は自分で幕を引く決断をしたのだ。

「まあ、私としては、敵が減ってくれるに越したことはないけど」

 板チョコを砕きながら闇珠が言う。

「あ、そうそう。蒼馬って人も、シオンに負けたみたいよ」
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