空の神衣
「津也?」

 精神生命である闇珠にとっては、外見がどうあろうと関係ない。

 微かに聞こえた声は、間違いなく津也だ。

 闇珠は確信した。

《来るな…》

 憂いに満ちた声が、闇珠を拒む。

「津也、聞いて。今あなたの心はマイナスの感情が暴走しているのよ」

 闇珠が揺らぐ光に向けて語りかける。

 しかし、返ってくるのは同じ言葉だ。

《来るな…》

 津也の光は、呪文のように繰り返すだけだ。

「津也、お願い聞いて!このままでは、あなたは闇そのものになってしまうの!帰ってきて!」

 闇珠は渾身の思念を込めて叫ぶ。

《いいんだ…》

 それまで「来るな」と繰り返していた津也の声に、初めて感情が宿る。

「いいって、どういうことよ?」

 一言発するだけで、闇珠は著しく消耗する。

 津也の霧がまとわりつき、闇珠を飲み込もうとしているのだ。

《最後の戦い…命の駆け引きになる…主催者が生の極限に向かおうとするなら、俺は死の極限に立たなくては勝ち目はないだろう…》

「だから、心の闇を解放したって言うの?そんな事をしたら、あなたは死ぬことさえできなくなるのに…」
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