空の神衣
 その、まさに苦肉の策が津也を動揺させた。

《シ…オン…》

 光を取り巻く霧が、僅かにだが緩んだ。

(今のうちに…!)

 闇珠は千載一偶のチャンスに賭けた。

「聞いて津也。あなたがここで闇に飲まれて暴走したら、今までに関わってきた人達の思いが無駄になるのよ」

 よろめきながら、闇珠は光に手を伸ばす。

 その手を阻むべく霧が押し寄せるが、確実に圧迫感は弱まっている。

 闇を祓うことは不可能だが、閉ざされた光を解き放つことならできるかもしれない。

(せめて、それだけでも私がやりたい!)

 本来の役目など、もうどうでもいい。

 闇珠の心は、津也に対する想いで満たされていた。

「津也、ひとつ忘れてない?あなたはまだ、私に願いを言ってないのよ」

 霧をかきわけ、闇珠は光を手にする。

 熱を全く感じさせない光は、闇珠に抱かれると微かに輝きを増す。

《…願い…》

「そうよ。戦いを終わらせたいというのは、私との契約には入ってない」

 闇珠は慈しむように光を抱きしめる。

《…思いつかない…》

 津也の声に、安堵の色が浮かぶ。

《闇珠、すまない…》

「いいの。…今度こそ、大丈夫みたいね」

 闇珠も疲弊しながら口許に笑みを刻む。

 やがて光は闇珠の手を離れ、更に輝きを増しながら広がる。

 それを見届けると、闇珠は津也の意識から離脱する。
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