空の神衣
 人間になりたい。

 闇珠は常々、人間は至極面倒な存在だと思ってきた。

 その人間になりたいなどと、考えた事もない。

「この頃よく、どうして人間に生まれなかったのかと思うの」

 闇珠は手を止めて呟くように言う。

「私の姿が津也の描くイメージの投影であるように、こうして私が津也に触れている感触も『こんな感じだろう』っていう想像でしかないの」

 声が沈んでいく。

「私が人間なら、作り物じゃない本物の手で津也に触れられるのに…この感触は紛い物なのよ…」

 また、涙が頬を伝う。

 必要ないはずの感情が闇珠を支配している。

「私が津也の願いを叶えるわけじゃないけど…もし私が願いを叶えられたら、私の願いも誰かが叶えてくれるのかな…」

 闇珠の嘆きに、津也は返す言葉もなかった。

 自分が闇珠の中でそれほど大きな存在になっていた事に、ただ驚くばかりだ。

「もし…もしね、私が人間で、どこかで津也と出会ったら、こうして一緒になってたと思う?」

 上を向き、目線をそらして闇珠は問う。

「それとも…もし私が人間だったら、普通の人間だったら、津也と会うこともなかったのかな…」

 津也はその闇珠の手を取り、強く引き寄せる。

「あ…」

 闇珠は虚を突かれ、倒れ込む。
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