空の神衣
 イーフリートを握る手にも、力が入らなくなってきた。

 そしてついに、津也の闇がシオンの炎を凌駕する。

 炎が弾け、殲咬弾がシオンの体を突き抜ける。

 声もなく、シオンは仰向けに倒れる。

『どうやら、ここまでのようです。お別れです、マスター』

 シオンだけに聞こえる惜別の言葉と共に、刀身が砕ける。

 鎧もドレスに戻り、シオンは目を見開いたまま動かない。

 動けないのだ。

 津也は銃をホルスターに収め、シオンの脇に膝をついた。

「俺の、勝ちだ」

 シオンは穏やかな笑みを浮かべる。

「あなた、なんて顔をしていますの。勝者が敗者の前で泣くものではありませんわ」

 津也の頬を伝う涙が、シオンに降り注ぐ。

「俺は…シオンに聞きたいことが沢山あったんだよ」

 溢れる涙を拭うこともなく、津也は続ける。

「シオンがどんな時代に生きていたのか、どんな夢を見ていたのか、どんな思いで今まで戦ってきたのか…」

 感極まり、言葉が詰まる。

「誇りを賭ける相手が、俺でよかったのか」

 それは、津也がずっと疑問に思っていたこと。

 戦士でもなく、命を賭けるほどの理想を抱いていたわけでもない自分がシオンの道を阻んでいいのか。

「馬鹿ね」

 シオンは震える手を必死に持ち上げ、津也の頬に触れる。
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