空の神衣
 実際には一瞬だが、二人にとっては果てしなく思える会話。

 それで、十分だった。

 津也はアガートラームを見据える。

「始めようか、退屈なデスゲームを」

「退屈とは、言ってくれたものだ」

 アガートラームは少しの時間でも待たされたのが不満な様子で、剣先を津也に突きつける。

「この私を相手に、退屈する暇などあるものか」

 剣を一閃して雷光を放つが、津也はこれを察して背後に回り込む。

「いや、どうしようもないくらい退屈さ」

 津也は何の感情も見せることなく、平然と言い放つ。

「そんな動きじゃ、蝿が止まるよ。シオンの方がずっと速かった」

「ぬうっ」

 アガートラームの表情が一変する。

 津也の動きは、常人はおろかサバイバーの域すら越えている。

 影縫の力を取り込んだために、津也の運動能力は人間の限界を逸脱しているのだ。

「貴様、その動き…そうか、分かったぞ。さては『喰った』な」

「喰った?」

 一瞬言葉の意味をはかりかねたが、津也はすぐに言わんとするところに気付いた。

「ああ、俺がツールの力を吸収したって言いたいのか。その通りだ」

 敢えてツールと言ったのは無意識のこと。

 津也は本能的に、影縫の名を出してはいけないような気がしたのだ。

「狙って当てようなんて思わないことだ。あんたの動きは見切った」

 津也の言葉は、半分は虚勢だ。

 アガートラームの攻撃は辛うじて見切れるが、体術を駆使する度に津也の体は傷ついていく。

 影縫の力によって運動能力は向上したが、身体強度は生身の人間と大差ない。

 常軌を逸した驚異的な速度に、体がついていけないのだ。
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