空の神衣
「俺は、戦いを見届けると決めたんだ。あんたの監視も兼ねてな」

 動こうとしない津也にアガートラームは諭すように言う。

『人は、人の世で生きるべきなのだ』

 それは、アガートラーム自身が津也との戦いを経て感じたこと。

『人の世にあって己の心を育み、人の心に足跡を刻む。それが、生きるということなのだ』

 人の世から隔絶したこの空間にいては、生きているとは言えない。

 生きたまま死人になってはいけない。

 アガートラームは、津也に本当の意味で生きろと言っているのだ。

『私のことなら、気に病むでない。たとえ早晩に消えようとも、少なくとも貴様の記憶には永久に居座るであろう』

 津也の目には、失ったはずの体に鎧を纏ったアガートラームの姿が確かに見えた。

『行くがよい』

 王はもう一度促す。

『帰るのだ。人の世に、愛する者のもとに』

 剣を一振りすると、津也の体を覆う黒いプロテクターが消え、手の中にカードが現れる。

「これは…」

『戦いを終えた貴様に、もはや力など必要ないであろう。全てカードに封印しておいた』
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