夜明けのこえ
細い腕が、背中に回されるのを感じる。


ナオは、しがみつくように僕を抱きしめていた。



その力はひどく儚くて。



彼女の息遣いを聴く度に



僕の心が剥がれていく。



剥がされていく。



彼女の指や、
震える喉、
脆弱な求愛。



それだけを頼って、


僕はナオを欲した。


彼女の壊れそうな手首には、ナイフの代わりに舌をあてがう。



僕の手のひらは、



彼女の着ていたサマーセーターの上からその膨らみを包む。


透明な感情だけ。



それだけが、互いを繋いでいた。



冷たくも優しい温度で。



僕らは触れ合い、
確かめ合っていた。


灰色の部屋。



今は少し色づいて。


ちょっと、空気が穏やかに感じられた。
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