【短】『夢幻華 番外編』偽りの恋人
偽りの恋人
「高端君って、もっと優しいと思ったのに…冷たいのね」
大抵の彼女達はそういって俺から去っていく。
冷たいって…だから、最初からそう言ってただろう?
俺と付き合いたいと言い寄ってくる女の子は多いけど、実際に彼女達が求めているものを、俺は与えてやることは出来ない。
それは最初から伝えてあるはずなのに…。
「高端先輩。あの…彼女と別れたって本当ですか?」
ほら、俺が別れたと知ると、すぐに誰かがこうやって確認に来る。
そして、本人か一緒にいる友達が、告白をするんだ。
「私、ずっと先輩が好きだったんです。付き合ってもらえませんか?」
ほらね、やっぱり。
大体さ、パターンが同じなんだよな。
「俺、君の事知らないし」
「これから知ってもらえばいいです。付き合ってもらえませんか?」
俺は彼女を好きになんて絶対にならないのに、付き合ったって意味無いと思うんだけど。
告白すれば、条件の揃った娘なら誰とでも付き合うと思われているから始末が悪い。
だから、やたらと雰囲気の似た娘が、この学校には多い。
それが自分のせいだという自覚はある。
でも…誰も杏にはなり得ない。
わかっている。
そんな事わかっている。
だけど、諦めることも、求めることも出来なくて、裂けそうに痛い心の隙間を、ひと時でも誰かが埋めてくれるなら…
杏の面影を僅かにでも、彼女の長い髪に感じることが出来るなら…
それが本当の杏でなくてもいい…
彼女に影を重ねて、痛みを忘れることが出来るのなら…