おじいさんと泥棒
おじいさんの手料理は全て残さずたいらげた。
残しのは失礼だから無理してでも詰め込むつもりではいたけど、美味しいのでその必要はなくなった。
まるで気がつけば料理がなくなっていると言った感じだ。
「…9時。」
僕は壁にかかっている柱時計を見て呟いた。
さっきは食器の片付けを手伝っていたから気づかなかったが、もうこんな時間か。
それを聞いていたおじいさんは僕に質問した。
「君の住んでるところはどこかな?」
「えっ…。」
「いや、近くなら送って行こうかと思ってね。」
僕は俯きながら答えた。
「…ないんです。」
ついか細い声になってしまう。
「はい?」
おじいさんは聞き返した。
「今日の朝、アパートを追い出されました。」
自分で言いながら苦笑するしかなかった。