おじいさんと泥棒



おじいさんの手料理は全て残さずたいらげた。


残しのは失礼だから無理してでも詰め込むつもりではいたけど、美味しいのでその必要はなくなった。


まるで気がつけば料理がなくなっていると言った感じだ。


「…9時。」


僕は壁にかかっている柱時計を見て呟いた。

さっきは食器の片付けを手伝っていたから気づかなかったが、もうこんな時間か。


それを聞いていたおじいさんは僕に質問した。


「君の住んでるところはどこかな?」

「えっ…。」

「いや、近くなら送って行こうかと思ってね。」

僕は俯きながら答えた。


「…ないんです。」

ついか細い声になってしまう。


「はい?」

おじいさんは聞き返した。

「今日の朝、アパートを追い出されました。」


自分で言いながら苦笑するしかなかった。
< 28 / 35 >

この作品をシェア

pagetop