おじいさんと泥棒
「さて、君の今後についてだが…。」
おじいさんは紅茶を眺めながら言う。
「此処で暮らさないかい?」
「えっ!?」
僕はいきなりの誘いに驚いた。
「私は君といると楽しいし、住むとこがないまま追い出したくはないよ。」
「………。」
「下宿代は掃除でいいんだ。」
「いや、それは駄目ですよ!!」
僕が思わず叫ぶとおじいさんはクスクスと笑った。
「…でどうかな?」
僕が黙り込んで考えているとおじいさんはさらに僕に聞いてきた。
「何なら養子になるかい?」
「えっそれは…。」
「冗談だよ。まぁゆっくり考えればいい。」
おじいさんは自分の紅茶から視線を外して、僕にこう聞いてきた。
「谷本君も朝の紅茶はどうだい?」
おじいさんはこの時初めて僕を名字で呼んだ。
「じゃあ、頂きます。」
僕はおじいさんの向かいの席に腰掛ける。
広い庭にふんわりと紅茶の香りが広がった。
そして、この澄んだ朝のやさしい空気の中で
この家に来て良かったと心の中で思っていた。
勿論、それはおじいさんに出会えたから。
end.