おじいさんと泥棒


「さて、君の今後についてだが…。」

おじいさんは紅茶を眺めながら言う。


「此処で暮らさないかい?」

「えっ!?」

僕はいきなりの誘いに驚いた。


「私は君といると楽しいし、住むとこがないまま追い出したくはないよ。」

「………。」

「下宿代は掃除でいいんだ。」

「いや、それは駄目ですよ!!」

僕が思わず叫ぶとおじいさんはクスクスと笑った。


「…でどうかな?」

僕が黙り込んで考えているとおじいさんはさらに僕に聞いてきた。

「何なら養子になるかい?」

「えっそれは…。」

「冗談だよ。まぁゆっくり考えればいい。」


おじいさんは自分の紅茶から視線を外して、僕にこう聞いてきた。


「谷本君も朝の紅茶はどうだい?」

おじいさんはこの時初めて僕を名字で呼んだ。

「じゃあ、頂きます。」

僕はおじいさんの向かいの席に腰掛ける。


広い庭にふんわりと紅茶の香りが広がった。


そして、この澄んだ朝のやさしい空気の中で

この家に来て良かったと心の中で思っていた。





勿論、それはおじいさんに出会えたから。





end.
< 34 / 35 >

この作品をシェア

pagetop