天の川の涙
しかし、呼んだ所で返事はない。

既に息をしていない事はあきらかだったが、理屈ではない。

呼ばずには、いられなかったのだ。

この日の為にと新しく仕立てた着物に、無情にも宏彦の血が容赦なく広がっていく―――

あまりに帰りが遅いと、様子を見に来た艶子が二人を発見し、双方に連絡をとりてきぱきと事が進められた。

周りはせわしく動いていたが、その場に座り込んでいた汐羅には全てが霞んで見えていた。

はっきりと見えていたものは、運ばれていく宏彦の姿のみで記憶に焼き付けるかのように、見えなくなるまでずっと見つめていた。



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