その日の前夜~地球最後の24時間~
 ひとしきり注文を捌いた直後、あさきちはタバコを吸うと言って外に出た。その手には携帯電話が握られている。

 まだ冷たい空気がむしろ心地良い店外。

あさきちはリダイヤル履歴を検索すると『片山興信所』と表示された番号を発信し、おもむろにタバコに火を点けた。

その興信所には、とある人物の行方を調査してもらっている。あさきちにとっては母親に等しい存在の女性だ。

呼び出しのコールが切れると通話口の向こうで無愛想な女性が対応する声が聞こえてきた。

「もしもし、浅野ですけど」

 自分の名を告げると担当の男が電話を代わった。いきなりまくし立てて言い訳を先に並べているところを見ると、まだ結果は出ていないのだろう。

「あー、はい……はい……うん、引き続きお願いしますよ、うん」

 電話を切ると、賑わっている繁華街の雑音がやけに鮮明に聞こえてくる。舌打ちをしたのはその音が耳に障ったからなのか、その興信所のふがいなさに呆れたのか、いや──

(こんなことならもっと早く行くんだった)

 己に対しての後悔というのが正解だろう。

小さな荷物を持って施設を出た朝のことを、昨日のことのように思い浮かべることが出来きた。その女性は寂しい感情を精一杯押し殺して、努めて笑顔であさきちに声を掛けたのだった。
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