あたしの神様
桐原があたしと郁の家に現れたのは、そんな日の夜だった。
郁の位牌に手をあわせに来たと言う桐原は、いつも着ている黒のロングコートを、抱えて部屋に足を踏み入れた。
その下にあったのは、唯のスーツだった。
あたしは、それでいいと思った。
喪服を、今日はもう見たくなかった。
あたしは、お父さんとお母さんの遺影の横に、本来ならかけなければならない郁の遺影を掲げる気になれなくて、唯郁の位牌の横にあたしと郁が笑顔で笑っている写真を飾っていた。
「徳井の手紙がある」
郁の位牌の前で、黙って手を合わせていた桐原が、おもむろにあたしのほうを振り向いてそう言った。